武田薬品工業の元社長、武田國男氏の生い立ちをが描かれた自伝。武田家の三男坊として生まれ、周囲からは社長となることは期待されていなかったが、長兄の死の影響で社長となった。それまでは、本のタイトルにもなっている「落ちこぼれ」としての学生生活と、窓際のような立場で会社に勤めてきた。急に社長となってからは、大企業病に犯されていた武田薬品の社内を、本業の薬品事業に集中し、やったものが報われる会社へと変革を進めた。
 この本を読んでいると著者は、自身の事をカンニングばかりやっていた「落ちこぼれ」とばかり言っている。学生の頃はともかくとしても、会社に入ってからは野心的にいろいろな事業にとりくんでいることが分かり、読んでいてたいへん面白い。そして社長となってからは、そこで得た経験をきちんと生かしているという事も良くわかる。武田の改革は、著者が実践で身につけた経営スキルがベースとなっていると感じさせられる。
 この本で描写されている改革前の武田薬品の状況を見ていると、典型的な大企業病だと言う感想を持つと同時に、僕自身の勤めている会社、企業グループのNECも、それと似た大企業病を煩っているということを認識させられた。この本の言葉を借りると「ぬるま湯の中で仲良しクラブや派閥にうつつをぬかしている会社」となる。仲良しクラブや派閥という存在が、企業にとって即マイナスになるとは思わない。大企業病の問題の本質は、続いてきた組織の惰性で、目的もなく事業を進めている状況にあると言って良いだろう。
 ところで、著者は甲南大学の卒業生であり、僕の先輩にあたる。この本の中でも「甲南漬け」(甲南漬けという神戸の漬け物とかけて、甲南幼稚園から大学の文化・風土にどっぷりとつかることをいう)と言う言い方が使われているが、この言い方はいつ頃から言われてるようになったのだろう。と、くだらない疑問を持った。