JR東日本のICカード「Suica」のドキュメンタリー。切符・定期券としてのSuica誕生までの物語と、そのSuicaが電子マネーとして進化していく物語、そしてその後の構想が描かれている本。
 自動改札機にタッチするだけで乗車できるICカード切符・定期券の「Suica」が誕生するまでには、まず最初に技術的な問題を乗り越える必要があった。それは自動改札機にタッチする時間を、0.2秒以内にしなければならないという処理速度の問題だった。しかし、その問題を解決しても、ICカードがビジネスとして成り立つのか、と言う問題が待ちかまえている。そこで考えられたのが自動改札機のメンテナンスコストが節約できるという理由である。磁気切符の場合ではベルトの摩耗に対するメンテナンスコストなどが多額に上るが、ICカードに変更することでそのメンテナンスコストが節約できるという訳だ。そして、その次に考えられたのが、駅ナカ、街ナカでの電子マネーとしての活用という理由がある。これでSuicaは定期券や切符から、電子マネーになる。電子マネービジネスを開始する上では、JR東日本のビューカードのノウハウが非常に有効であったことなどが描かれている。この本を読んだことで、SuicaがJR東日本にとって、いかに大きな意味を持つプロジェクト・ビジネスであるのかと言うことが分かる。
 この本では、JR西日本の「ICOCA」や、スルッとKANSAIの「PiTaPa」についても取り上げられている。これらのICカードは技術的に相互利用が可能である。それは、最初から鉄道会社同士が規格を統一して進めているからであると言うこともこの本を読むことではじめて知った。競争だけでなく、このような協力関係があることは鉄道利用者にとっては素直に有り難いことだと思う。
 電子マネー分野については、ビットワレットのEdyがANAやNTTドコモとの協力によって普及しており、その普及に刺激される形で、Suicaの電子マネーとしての幅が広がってきている。一つのカードだけで世の中が随分と変化していく。この本は、そんなドキュメンタリーが描かれている。何気なく持っているSuicaだが、この本を読んで可能性を秘めた面白いカードなのだと、改めて感じた。