ITは、ビジネスにおいて、電気・水道・ガスなどと同じように、必需品となった(コモディティ化した)。ITによって革新を起こして他の企業との差別化を行うことはできない。と言う主張が行われている本。この本の主張で最も誤解を招きそうな部分はITと言う用語の意味。この本では、「情報をデジタルの形で保存、処理、伝達する目的で使われるあらゆる技術」と定義し、具体的には、コンピュータ、ネットワーク、ストレージ、ソフトウェアなどを指している。
 この本の主張をまとめると『ITはビジネスのインフラとなっており、どの企業にも必要なものである。電気・水道・ガスの供給を他の企業と異なる方法で行うことで差別化することが困難であるように、ITによって差別化することも困難となっている。インフラは独自調達するよりも、標準的なものを世間で共有する方が効率が良い。ITの場合でも標準的なものを使用する方が効率が良く、独自性で差別化しようすると逆に効率が悪くなる。』という事になると思う。先に定義したITが、すべての面においてコモディティ化しているか否かは疑問が残るが、この主張にはおおむね納得できる。特に、「支出を抑える」「先頭に立たずに、後からついて行く」「革新はリスクが小さい時に行う」「チャンスより脆弱性に注目する」と言うIT投資のガイドラインには非常に納得できる。
 この本は、「ハーバード・ビジネス・レビュー」2003年5月号に掲載された論文「IT Doesn't Matter」を発展させたもので、原題は「Does IT Matter?」。IT業界で話題になっている本なので読んでみた。この本の内容にはIT業界からの反論が多いようだが、この本ではITを上手に活用することで差別化ができると言うことは否定していない。しかしそれでも反論があるのは、IT投資が盲目的に行われてきたのと同じように、この本の主張を良く理解せずに、IT投資の削減を盲目的に行う経営者が出現するのでは無いかという懸念からではないだろうか。
 ただし、この本の内容を理解したとしても、ITの何に投資することが差別化に繋がるかを知ることは難しいと思う。