人間関係について述べられた自己啓発書。読んでみれば、書いてあることは至極当たり前のことばかりと思うのは私だけではないと思う。しかし、当たり前のこととわかっていながら、それに取り組めていないというのが実際のところ。そして、当たり前のことを本に指摘されたからと行って、そうだとは思いながらも、取り組めないのも実際のところ。
 この本では、人を動かす三原則、人にすかれる六原則、人を説得する十二原則、人を変える九原則、幸福な家庭をつくる七原則で構成されている。書かれていることは、結局は「他人を思いやりなさい」ということなのだと思う。しかしこの本の面白いところは、それらの原則を読者に伝えるために、これでもか、これでもか、といわんばかりに具体例をあげ続けているところ。そして著者は、それらの具体例をなるべく読者が思い浮かべられる人物で説明しようとしている。残念ながら、1955年にこの世を去った著者の思い浮かべられる人物と僕が思い浮かべられる人物が同じというわけにはいかないが、ナポレオン、リンカーン大統領、アル・カポネなど思い浮かべやすい人物が取り上げられていることは確かである。そして、それらの具体例を読みながら、それぞれの原則に納得し、自分もそう取り組みたくなってくる。「人を動かす」術の書かれたこの本は、読者を動かす術を知っているのかもしれない。