「健全なる常識を持つ、世界に通用する紳士たれ」「知育、徳育、体育」と言う平生釟三郎の言葉は、甲南大学を卒業した者であれば当然知っている。そして僕自身もその一人である。しかしながら、甲南学園を作ったこと、文部大臣を務めたことなどは知っているが、その生涯についてとなるとほとんど何も知らない。
 主な経歴を順に並べると、高等商業学校を卒業、兵庫県立神戸商業高校校長、東京海上保険株式会社入社、甲南幼稚園・小学校・中学校を創立、甲南病院を創設、川崎造船所社長に就任、ブラジル経済使節団団長、貴族院議員、広田内閣の文部大臣、日本製鉄株式会社会長に就任となる。これだけで、政治、文教、経営の世界を股にかけて活躍した人物であるということがわかる。この本を読んでみて感じたことは、経営の世界で非常に力を発揮した人物であったと言うこと。僕自身が甲南大学で学んだから感じるのだとは思うのだが、平生釟三郎は教育者であるというイメージが強い。もちろん人を育てることに尽力したことは確かだが、東京海上、川崎造船所、日本製鉄(現在の新日本製鉄)での経営の取り組みは興味深い。行ったことは、経営者として極めて当たり前のことを行っているだけとも言えると思う。しかし、現代の経営者にはできていないことばかりである。当たり前の管理を、責任を持ってきちんと実施すること。この本の著者は、平生釟三郎は、武士道の精神(恥を知ること)で、自分を律して責任をもって物事に取り組んできた。ということを言っている。「自分を律すること」というのが「健全なる常識」か、と感じた。