私が読んだ本の中でみなさんにおすすめしたいと思った本や、一言言いたいと思った本を取り上げ、紹介していこうと思います。ここで取り上げる本は文学的なお堅いものではなく肩の凝らないものにしようかなぁ、と考えていますが、一応、読んだ本の中で気になったものは何でもかんでも取り上げてみようと言う方向です。タイトル見た時点で「うげっ」って感じの奴はどんどんとばしてもらったらいいと思います。


メルヒェン − ヘッセ著・高橋健二訳(新潮文庫) - 1997/07/29







 ヘルマン・ヘッセといえば「車輪の下」「デミアン」等でお馴染みかと思うが、ここで紹介する「メルヒェン」はその名の通り童話である。私自身はヘッセの作品については空想的なイメージを持っているが、この作品も例に漏れず空想的な物語だと感じる。ヘッセの代表的な作品を読んだことがある人は、そのままの印象でこの本を読んでみればいいと思う。ヘッセのような作家の与える物語は、特にこのような童話の中で読者の心を洗い掛けるのではないだろうか。そしてこの「メルヒェン」は、短編集の形を取っているので少し読んでみようかと考えた人にも気軽に手に取ることができると思う。
 この作品集の世界は、美しいという言葉で表現するのがふさわしいと思う。私だけかも知れないが、童話というと単調性・残忍性といった美に対して負の性質を想像してしまう。しかしこの童話集はそういった印象ではない。その理由は、いわゆる童話が俗世間から生まれてきた民族童話を指すのに対して、この童話集が創作童話であることだからなのかもしれない。ヘッセという詩人が描いた物語だからかも知れない。そんな考察はともかく、この童話集にはいわゆる童話の俗っぽさというものはないので、読みやすい本だと思う。
 最後になったが、この作品は故高橋健二氏の翻訳によるものである。この場所を借りて、親しみやすい翻訳を与え続けて下さった氏に感謝し、氏の御冥福をお祈りさせてもらう。


惑星カレスの魔女 − ジェイムズ・H・シュミッツ著 金田三平訳(新潮文庫・創元SF文庫) - 1997/06/04







 コミカルな印象を受けるSF小説である。恐らく楽しく読み進められる小説ではないだろうか。四百頁を超える割には、短いような印象を受ける。軽い気持ちで読んでみればいいんじゃないだろうか。
 スペースオペラと言うジャンルの小説は僕自身あまり読まないので、この小説を紹介するのにはやや厄介な感じがする。スペースという限りは宇宙を舞台とした物語である。ちなみにここで言う宇宙とは地球以外の惑星という意味ではなく、宇宙空間とその中に点在する星々の意味である。つまり、スペースオペラとは、宇宙空間を宇宙船とかに乗ったりしてうろうろする話なのである。といってもこの話は、TVアニメ(コンピュータゲーム)にありがちなビュンビュンとミサイルを撃ち合って、戦争をする物語ではない。○○艦隊だの△△軍だのと行ったややこしい名前は出てこないので、この小説を読むときにその辺りのことを恐れる必要はないだろう。どちらかと言うと宇宙冒険物と言った感じだろうか。この小説は、いわゆる宇宙物を想像するよりは、ヴェルヌの著作をイメージしてもらった方が近いだろう。
 それからタイトルに出てくる魔女と言う言葉に惹かれる方もいるかも知れないが、このお話の主人公は魔女ではないのであしからず。主人公は宇宙船の船長のパウサートで、彼が魔女達と出会って、彼女と冒険を共にする話だ。船長が魔女達との出会いによって、今までの生活から大きく離されてしまう所がこの物語の始まりになる。それ以降の展開は是非この本を実際に読んでみて欲しい。ちなみに僕自身の意見を言うなら、船長が魔女達と出会うシーンが一番好きだ。
 SF小説と言うと、なんだかマニア達の異世界と行った印象を受けるかも知れないが、この小説に関して言うのなら(あまりSFを読まないので何とも言えないが)、誰でも気軽に読める小説だろう。女性が出てくるからと言うわけではないだろうが、ほんわかとした印象をうけながらやさしく読めると行った感じだろうか。ただ七百円を超えるのはちょっと痛いかも知れない。


愛は下剋上 − 藤田千恵子著(NTT出版・ちくま文庫) - 1997/01/04






 「とても軽快にサクサクと読み進められるエッセイ集だな」というのが、僕自身が読んでみて抱いた第一の感想です。エッセイ集だから、もちろんたくさんエッセイが入っているわけですが、どれくらい入っているかというと四五本(数え間違えがなかったら)入っています。多いのか少ないのかよく解りませんが、多分多いと思います。逆から言うならば、一つ一つのエッセイが短いわけです。短いもので三頁、長いものでも八頁(ちくま文庫版)という長さです。これだけでも、お手軽に読むことのできるエッセイ集だと感じてもらえるでしょう。
 それでは、どのような内容なのかという事に移りたいのですが、それは「立ち読みしてもらうのが一番早い」と思います。でもそれでは非常にまずいので、ちょっと触れておきます。著者は独身女性で、フリーライターをしています。そこで、著者自身の「独身女性ならでは」「フリーライターならでは」のいろいろな経験について書かれているわけです。あんまり内容について触れてしまうと読む楽しみが半減してしまうと思うので、あまり具体的には言いたくないのですが、これだけでは訳がわからないので、一つ、僕のお気に入りのエッセイを紹介しましょう。後の方にある「一緒にいるわけ」というエッセイです。
 『「組み合わせが不思議でたまらない二人」が世の中に多く、その理由にその二人にしかわからない事があるんだろうなぁと感じる。そして、その身近な例として、自身の「格好良い父」と「だらしない母」の組み合わせを挙げて、父親が何故そんな母親と一緒にいるのか、不思議に思っている。しかし、「父親はさつまあげが好きで、オカズにした六つのさつまあげを黙ってみていると四つも、五つも食べてしまう。」という、両親の貧しき新婚時代の話を聞いて感じる。あの優しい父親がオカズのさつまあげを母親と半分ずつせずにほとんど食べてしまう事が、信じられない。そして、それを見て怒らずに、「うわー、この人はさつまあげが好きなんだなー」と感じた母が解らない。けれど、何故こんな母と父が一緒にいるのか何となく感じて解る。』
 このほかにもいろいろな趣の話がありますが、一例として挙げてみました。このエッセイ集は、漫画よりも手軽に読めるのではないか、と僕自身感じています。お手軽な本なので是非ご一読下さい。
 さて、最後になりましたが、この本は「みのり伝説」(尾瀬あきら/ビッグコミックオリジナル/小学館)の元になったエッセイ集でもあります。この本を読むときに、この漫画も一緒に読んでみてはいかがでしょうか。