その時、僕はあわてていた。
PCで作成したデータをプリントアウトしようとしていた。


画面上の「OK」ボタンを押下し、印刷を始めた。
棚の上に設置したインクジェットプリンタは、
テンポの良い音を立てて、紙を排出した。
その紙は真っ白だった。


PCの画面をのぞき込む。
僕が印刷しようとしたデータが真っ白ではないことを再度確認する。


嫌な予感がした。
「インク切れか」
しかしながら、
今から電気店に向かいインクを購入していたのでは間に合わない。
ちょっとばかり危機的な状況に陥っていた。


悩ましい頭に右手を添えながら、落ち着きを呼び込む。
再び、PCの画面に目を移した僕は、
プリンタドライバのインクの残量の項目を確認する。
そこには、インクの残量はたっぷりと残っていると言う表示。
「ソフトウェアのトラブルか」
もう一度「OK」ボタンを押下、テンポの良い音をもう一度響かせる。
印刷が始まる。そこから排出されるのは真っ白の紙。
繰り返される光景。


何枚も排出される白い紙を見ながら、僕はあわてていた。


キンコーズにでも寄っていくしかないかな。
と代替案を頭に思い浮かべながら、重要な発見。
真っ白と思っていた紙の上に薄く薄く文字が印字されている。
「これは、ソフトウェアのトラブルではない」
もっとずっと機械的な問題。


プリンタの蓋を開けて、インクを取り出す。裏返してみる。
「これか、…」
そこには、インクの固まりがこびりついている。
しばらく使っていなかったプリンタの姿。
わかってしまえば、ありがちなトラブルだと思いながら、
湿らせた綿棒でインクの固まりを取り除く。


後は、驚く程簡単に事は進んでいった。
小さな謎解きにちょっとした探偵気分を味わいながら。
のんびりも、していられない、
僕は、きちんと印字された紙を手に、部屋を出て行った。