数学を愛した作家たち
夏目漱石、正岡子規、泉鏡花、二葉亭四迷、石川達三、新田次郎、井原西鶴、スウィフト、スタンダール、ポオ、ヴァレリーという作家が取り上げられている。中身を読んでみると、これらの作家が数学を愛していたと言うのは必ずしも事実ではないが、作中で数学に触れているか、数学に関して何らかの意見を言っているかしている作家ばかりである。
この本は雑学の宝庫というのが第一の印象。四六時中という言葉が、4と6の掛け算が24となり24時間中で一日中という意味の語源になっていることは、恥ずかしながら初めて知った。また、「坊っちゃん」の主人公が数学の教師だと言うことも、過去に「坊っちゃん」を読んだことがあるにも関わらず、完全に忘れていた。このように、雑学の知識がつまっている本。
しかしながら、この本の持っているメッセージとして数学教育のあり方のようなものが、所々に語られている。数学という学問は、実社会に適用できるような実用的な学問ではない。数学を学ぶことで論理的思考力を鍛えることはできるか。といったようなテーマである。論理的思考力を鍛えるには小論文を書くことが好ましいという考え方も紹介されている。このような主張を読んでいて、僕自身は数学では、幾何学の補助線の引き方など、ちょっと違う視点から考えてみるという直感力を鍛える事が出来るのかも知れないと思った。
また、ヴァレリーの数学者への警告で上げられている点も興味深い。『日常生活での事柄の多くは不確かな事柄を前提としている。そういう事柄に数学の論法を適用しても良い結果は得られない。数学は確実な前提に基づく推論である。数学の論理を適用する前に、常識的な観点から考えてみることが大切なのである。』ただこの警告にちょっと誤解があるかなと思うのは、ほとんどの数学者は数学の限界を自覚している。実際には数学者以外の人が、数学で解決できない問題を数学に期待することが多いのではないか、と感じた。