世界中が雨だったら
殺人をテーマとした物語が3つ。テーマがテーマだけに、読んだ後に気分が良くなるようなものではない。ただ、物語には興味を引かれて一気に読み上げることができた。「琥珀の中に」では男性の死体を水槽の中に、「循環不安」では女性の死体を車の中に。主人公達はその死体達にとりつかれたように振り回されていく。この2作品は、物語の展開に惹かれはしたものの、正直なところは読んでいて気分が悪かった。作品としては評価するものの勘弁して欲しいという感情を持った。
本の表題ともなっている「世界中が雨だったら」は学校で暴力をふるわれている主人公が、趣向を凝らした自殺(?)をする物語。「暴力をふるわれ続けるのが耐えられないのならば逃げ出せばよい」。そんなメッセージが主人公と、主人公の姉の一人称で交互に語られていく。そして、「雨が降ったらひとは軒下に逃れます。」「でも、世界中が雨だったら?」というやりとり。暴力をふるわれ続けていている者達が感じる絶望という感情。彼らの居る世界に雨が降っていたら、彼らは世界中で雨が降っていると思うのは至って当然のこと。でもそれは、彼らの居るとても小さな世界のことで、世界中が雨かどうかなんてわからない。時が過ぎれば当たり前と気づくこと、時が過ぎなければ気づかないこと。でもそれは、その世界を生き抜いてはじめて言えることでしかないんだろうね。