2000年に出版された本で少し内容が古いのかなと感じた。この本を読んで感じたのは、先日読んだ「電子マネー戦争 Suica一人勝ちの秘密」で、電子マネーが生まれる背景には、この本で紹介されているようなJR東日本の積極的な事業創造の姿勢があったのだと知ることができた。しかし、この本によると、JR東日本の事業創造は初期段階ではあまり成果が上げられなかったようだ。鉄道マンが慣れない手つきでレストランの店員を務めると言う状態や、これと言ったポリシーもなくどんな事業にでも取り組むなど。しかしそのような状態からも、JR東日本の社員自身が鉄道周辺サービスの利用者としてどう思うのかを考えていく中で、顧客の視点で発想することができるようになっていく。事業創造ということで、本業とのシナジーも考えずにどんな事業にでも手を出すという姿勢があったJR東日本だが、様々な事業に取り組む中で、他の業態(この本では主に百貨店が取り上げられているが)に出向して働いていた社員達の鉄道マンとは違う発想が生かされるようになる。
 事業創造による変革というビジネスは、大変興味深い。JR東日本では事業創造に失敗した経験をきちんと蓄積し、また事業創造に取り組んで失敗した社員は居場所が無くなったり罰を受けたりするのではなく、その反省を生かして新たな事業創造に取り組める環境が整っているようだ。他の企業に視点を移してみると、2000年当時であれば企業内ベンチャーが流行していた頃だと思うが、最近は事業創造は下火となりベンチャー企業をM&Aで吸収するスタイルが流行っている。JR東日本では、失敗を生かす姿勢が功を奏し、今でも電子マネーのような事業創造に取り組むことができているのではないかと考えられる。
 この本では、上記のような華やかな側面以外に、ローカル線の課題が取り上げられている。鉄道はJR東日本が持つ重要な資産であることは言うまでもないが、事業創造として注目される駅は東京やその近郊や、地方の中枢の駅のみとなっている。ローカル線の駅は寂れており、駅を降りたとたんシャッターの降りた店が並んでいるところが多い。地域の活性化をキャッチフレーズの一つに上げるJR東日本としては、もっと真剣に取り組まなければならないテーマの一つではないかと思われる。