ガブリエル・ガルシア・マルケスのルポルタージュ集。本書の翻訳の底本は、ガブリエル・ガルシア・マルケス「ジャーナリズム作品全集」第六巻「ヨーロッパとアメリカ大陸から第二集(1955−1960)」ということで、取り上げられているルポは、ベネズエラの独裁政権の崩壊の時代のもの。
 実際のところ僕は、この時代のベネズエラや南アメリカについては詳しくない。というよりもほとんど何も知らない。時代背景を知っている方がより面白く内容を読むことができるはずだとは思うが、そうでなくとも関心を持って読むことができた。独裁政権の崩壊、狂犬病の犬に噛まれた少年の命を救うための血清を調達、妻と喧嘩して家を出た結果インディオに捕まって帰れなくなる若者、雨が降らず干上がった街、ベネズエラを海外の債務から救うために市民から寄付をつのる提案、競走馬の競売といったようなルポが掲載されている。どの話も興味深く読んでいたが、ルポなのか小説なのかよくわからないようなものが多いという印象を感じた。例えば、実際に雨が降らず干上がった街の話「1958年6月6日、干上がったカラカス」などは事実ではなく、未来の仮定である。まさに、ジャーナリストから小説家へと移行していく時代の作品を集めた本なのだと思う。
 短編小説集だと思って読んでも違和感無く楽しめると思うが、そのつもりであればマルケスの小説を読んだ方が面白い。マルケスというジャーナリストが、小説家になっていく一つの側面を知ることができるという意味で最も面白い本だと感じた。