直木賞受賞作と言うことで以前からタイトルは知っていたので、ふと手にとって読んでみる事にした。著者自身のあとがきに書かれている「短篇集、といっても様々なお菓子の詰め合わされた箱のようなものではなく、一袋のドロップという感じです。」という表現は上手くいったもので、この短篇集に含まれている作品は、すべて同じ雰囲気を持った作品だと感じた。
 200ページくらいの文庫本で、収録されている短篇は12作品。一作品、一作品はとても短くすぐに読めてしまう。どの作品でも主人公の女性が、問題を抱えていて(その多くは男女の人間関係である)、その問題に向き合う様が描かれている。それぞれの問題は当事者にとっては大きな問題だが、文章からは悲壮感が漂うようなトーンは受け取れない。風が吹いた後から考えるようなペースで主人公は行動していく様が感じられる、不器用な感じ。
 「号泣する準備はできていた」。この短篇は、主人公の愛する男性からの電話と、主人公とその姪とで物語が展開される。電話越しでしか登場しない男性との微妙な距離間が、この作品に上手く寂しさの雰囲気を出しているな。そんな風に思った。